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現金からみた「金利のある世界」と銀行経営|Future Financial Innovation Lab
金融

現金からみた「金利のある世界」と銀行経営|Future Financial Innovation Lab

約30年ぶりに日本で「金利のある世界」が復活しつつあります。この歴史的な変化を紐解き、これからの激化する預金獲得競争において銀行経営に求められる戦略とインフラのあり方を展望します。

山岡 浩巳

山岡 浩巳

フューチャー株式会社

取締役 金融ビジネス・フィンテック事業推進 兼 最高サステナビリティ責任者(CSO)
フューチャーアーキテクト株式会社取締役

日本銀行において、金融市場局長、決済機構局長など政策分野に広く携わる。この間、国際通貨基金日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員、国際決済銀行(BIS)市場委員会委員、同決済・市場インフラ委員会委員など国際機関の要職を歴任。経済・法律分野での著書・論文多数。米国ニューヨーク州弁護士。

2026年6月の金融政策決定会合で、日本銀行は政策金利である無担保オーバーナイト金利の誘導目標を、それまでの0.75%から1%に引き上げました。もちろん、米国(3%台後半)やユーロ圏(2.25%)、英国(3.75%)など主要先進国の政策金利に比べればなお、かなり低い水準ですが、それでもほぼ30年振りに、日本に「金利のある世界」が復活しつつあります。

このことは、金融環境にさまざまな変化をもたらしています。
日本における現金の流通残高は、1990年代に入るまで対名目GDP比率8%前後の水準で比較的安定していました。これは、現金への需要が平時には概ね経済活動の規模を反映するはずであることを考えれば当然ともいえます。しかし、90年代半ばにこの関係は大きく崩れ、現金は1万円札を中心に、経済の規模を外れて急速に増加しました。

現金対名目GDP比率(%)
ー 大きな転機は1995年頃 ー
現金対名目GDP比率 大きな転機は1995年頃

このように現金が急増した時期は、まさに90年代半ば、バブル崩壊のもとで金利が急速に低下し、預金金利が概ねゼロ%台となった時期と符合しています。経済学用語としての「シューレザー・コスト」、すなわち、金利を獲得するために銀行の店舗やATMまで現金を運んでも靴がすり減るコストの方が高いという状況が多く発生したと考えられます。また、銀行にとっても決済性預金の提供は、自動引落し機能の提供などさまざまなコストがかかる一方、イールドカーブがフラット化する下で利鞘も縮小していましたので、採算性や自己資本負担を踏まえ、敢えて積極的に預金獲得に向かわなかったという事情もあったように思います。

定期預金金利(1年、300万円未満、%)
ー 1993年~2007年 ー
定期預金金利


しかし、最近ではこの状況に変化がみられています。90年代半ば以降増加を続けてきた現金が、最近では減少に転じています。内訳を見ても、これまでの増加の主因となっていた1万円札の減少が目立っています。千円札は経済活動に伴う取引需要をほぼ反映すると考えられますので、1万円札の減少は、これまで資産保蔵目的で増加していた1万円札が、「金利のある世界」への移行に伴い、利回りを求めて動き出していることを示唆しています。

券種別流通高(1985年~)
券種別流通高


このような環境変化は、銀行経営にとっても大きな意味を持ちます。
金利のある世界への移行およびイールドカーブの正常化により、預金が収益を生む環境も復活しつつあります。この中で、預金の量やコストを踏まえたALM管理が重要となります。手をこまねいていては、激化する預金獲得競争で劣後するおそれがある一方、後々の過度なコスト増も避ける必要があります。この中で、「どのようなインセンティブ賦与がどの程度の預金獲得に結び付くのか」といった感応度を分析しながら、臨機応変に預金獲得の戦略を打っていくことが求められます。例えば、預金への時限的なリワードの提供や、地域で関心の高いイベントと結びつけた可変型預金金利の設定、預金量や付帯サービスの利用度などとリンクさせたきめ細かな金利・手数料の設計などが考えられます。
また、このような戦略を機動的に展開していく上では、銀行のインフラがこれを容易に実現できる柔軟性を備えているかどうかも重要です。この点も、タンスの中にしまい込まれていた現金を預金化できるかどうかの大きな鍵になると考えられます。

出所:
日本銀行(通貨流通高)
日本銀行時系列統計データ検索サイト
内閣府(国民経済計算 GDP統計)

所属・役職は記事公開当時のものです