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地域通貨を成功させるには|Future Financial Innovation Lab
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地域通貨を成功させるには|Future Financial Innovation Lab

デジタル技術の発展とともに近年、再び注目を集めてきた分野の一つとして、「地域通貨」が挙げられます。本稿では「地域通貨を成功させるには」というテーマで考察したいと思います。

山岡 浩巳

山岡 浩巳

フューチャー株式会社

取締役 金融ビジネス・フィンテック事業推進 兼 最高サステナビリティ責任者(CSO)
フューチャーアーキテクト株式会社取締役

日本銀行において、金融市場局長、決済機構局長など政策分野に広く携わる。この間、国際通貨基金日本理事代理、バーゼル銀行監督委員会委員、国際決済銀行(BIS)市場委員会委員、同決済・市場インフラ委員会委員など国際機関の要職を歴任。経済・法律分野での著書・論文多数。米国ニューヨーク州弁護士。

地域通貨が直面してきた課題と「ネットワーク外部性」

特定の地域内での利用を促すことで地域経済の発展を図る「地域通貨」の発想や発行は以前からありました。有名なものとしては、ドイツ・バイエルン州の一部地域で用いられている「キームガウアー」(Chimegauer)などが挙げられます。
もっとも、このような地域通貨は総じて小規模のものにとどまってきました。その理由は、通貨の持つ「ネットワーク外部性」(Network Externality)および紙や金属を媒体とする場合の物理的制約にあります。

通貨や支払手段(クレジットカード、電子マネーなど)は「使える先が多いほど、それを持つことのメリットが大きくなる」、「持っている人が多いほど、これを支払手段として受け入れるメリットが多くなる」といった、強いネットワーク外部性を持っています。国全体で使われる「ソブリン通貨」(ドル、ユーロ、円など)に比べ、利用範囲を限定するタイプの地域通貨は、その分ソブリン通貨に比べてネットワーク外部性は劣後します。したがって、これらが全く同じ価値なら、やはり国中で使えるソブリン通貨を持った方が良いとなりがちです。
したがって、地域通貨を流通させるためには、「一定の地域内で利用する場合には100円で入手した地域通貨が103円分に使える」といった何らかの「プレミアム」を柔軟に提供していくことが必要となります。では、そのプレミアムの原資をどう捻出すればよいかが課題となるわけです。

デジタル技術による課題解決とデータ・行政連携の展望

しかし、デジタル技術の発達は、この問題をさまざまな方面から解決できる可能性をもたらしています。
まず考えられるのは、データの活用です。地域通貨プラットフォームの提供を通じて、地域の住民がいつ、どこで、どのような財やサービスをいくら購入しているのか、といったデータを収集できる可能性が生まれています。そうなると、このデータを対価を払ってでも入手し活用したいというニーズが出てくるかもしれません。
また、地域行政と連携できる可能性もあります。例えば、①行政が補助金の給付などにデジタル化された地域通貨を使うことによる事務コストの削減、②ブロックチェーン・分散台帳技術に基づく「スマートコントラクト」を活用し、使途や利用期間を制限したデジタル地域通貨での給付を行うことによる政策効果の向上(例:「○月〇日まで子育て目的にのみ使えるプレミアム」の賦与)、などが考えられます。これらを通じて、行政と一体となって地域通貨を推進させられる展望も拓けています。
さらに、地域通貨プラットフォームを通じて地域におけるさまざまな活動を繋げられる可能性もあります。例えば、地域でのボランティア活動やゴミの削減、省エネの推進などの活動に対し、スポンサーを得て地域通貨でのリワードを賦与することなどです。

また、前述の「キームガウアー」など、既に発行されているいくつかの地域通貨は「ゲゼル貨幣」の考え方を取り入れています。ゲゼル貨幣とは、ドイツの思想家シルビオ=ゲゼル(1862-1930)の提唱したもので、貨幣の価値を時間とともに減価させることで退蔵を防ぎ、早期の支出を促すとの考え方です。しかし、これを紙の世界で実現することはなかなか大変です(ゲゼルは「一定の期間ごとに紙幣に有料のスタンプを貼るよう求める」という、かなり面倒な方法を提唱しています)。
この点、デジタル技術を用いることで、例えば、一定の地域内での利用に使える「プレミアム」をデジタルベースで発行し、そのプレミアムが時間とともに減価していく、といった設計の実現も可能となります。

しかしながら、デジタル化の進展とともに関心が高まった地域通貨ですが、その後の動きをみると、十分に広まらず活動を停止したものも相当数みられています(下図)。地域通貨を成功させるためには、単に紙や金属の通貨をデジタル化すれば良いということではなさそうです。では、何が必要となるのでしょうか。

日本の地域通貨稼働数の推移

サステナブルな地域通貨の実現に向けた金融機関の役割

まず、地域通貨を流通させ続けるには、通貨として必要な信認を確保し続けていくことが重要となります。地域通貨といっても、一地域内で国の通貨と全く違う通貨単位を使い続けることは、信認構築にかかるコストを考えれば現実的ではありません。結局、地域通貨をサステナブルなものとするには、既に確立されているソブリン通貨や通貨システムへの信認を活用しながら、地域振興などにとって有益なインセンティブを柔軟に設計し提供していく必要があります。

このような地域通貨を実現する上で最も有望な方法としては、地域で既に信認を得ている金融機関の預金を「デジタル地域通貨」のプラットフォームとして機能させることが考えられます。例えば、アプリで預金の移転による支払決済をサポートするとともに、地域内での利用や地域の特産品の購入に対しアプリ上でプレミアムを賦与することで、地域経済の発展を後押しすることなどが考えられます。地域金融機関にとっても、地域における消費活動などに関する情報を失うことなく、自ら集積できるというメリットがあります。このアプリに、地域で生活していく上で有益な機能、例えば行政や交通、防災などに関する機能や情報を併せて搭載することで「スーパーアプリ」化すれば、地域通貨を地域のつながりを強める方向にも活用しやすくなると考えられます。

また、前述の通り、地域通貨がソブリン通貨に対して魅力的であり続けるためには、その時々の経済情勢や社会課題、地域のトピックなどに応じたさまざまな「プレミアム」や「インセンティブ」を臨機応変に提供できることが必要です。このような柔軟性は、例えば自治体と協力して政策効果を高める取り組みを進める上でも必須です。
そのためには、預金の商品性を自由に設計し速やかに変更もできるインフラが求められ、結局はシステムの柔軟性や弾力性がきわめて重要になります。さらに、地域通貨プラットフォームが非金融も含めたさまざまなサービスと連携していく上では、APIのオープン度も鍵となるでしょう。

出所:
専修大学 経済学部教授 泉 留維「日本における地域通貨の現状と課題 -近年の新潮流を踏まえて」,一般財団法人ゆうちょ財団「季刊 個人金融 2021年冬号」,2021年2月

所属・役職は記事公開当時のものです

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