2026.09.08
開催レポート 「イノベーションワークショップ 2026 第1回 AI時代における企業変革の実践論」
フューチャー株式会社が運営する社会貢献団体「フューチャー イノベーション フォーラム」(FIF)は2026年7月7日に「イノベーションワークショップ2026」第1回を開催しました。
開催概要
FIFでは、業種や業界を越えて交流を深め自己研鑽する場として、2007年からイノベーションワークショップを実施しています。
2026年度は「AI時代における企業変革の実践論」をテーマに、企業の課題解決のヒントとなるようなAI活用の取組みを共有し、ディスカッションを重ねていきます。初回は株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO 磯和啓雄様に、SMBCグループのAI活用の取組みについてお話しいただきました。
講演:AI時代を見据えた、SMBCグループが描く未来のビジョンと変革の道筋
AX(AI Transformation)、DXを進める上で一番大事なのは「手段の目的化」をしないことです。AIの活用やデジタル化はあくまで手段であって、会社全体をどうしたいか、日本を、さらには世界をどうしたいかという議論が重要です。一例として、CDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)として、推進してきたグループのデジタル化や新規事業の取組みを紹介します。
2023年にリリースした、個人向けデジタル総合金融サービス「Olive」は、金融・非金融サービスをシームレスにつなぐことで高い利便性を実現し、800万口座を達成しました(2026年5月時点)。また、法人向けデジタル総合金融サービス「Trunk」は、2025年の提供開始から1年で7万口座を突破し、国内新設法人の約20%に利用されています。どちらも使い勝手を最優先にネットに強い企業とのオープンな連携のもと、グループ内に閉じることなくサービスを拡大しています。
当行ではAI活用が業務の一部にとどまらないよう、2024年10月に部門ごとの予算とは別に500億円の予算枠を設定し、各部門から持ち込まれた企画について、社長と頭取、私含むCxOが根回しなしで判断して予算をつけておりました。予算枠が設定されてから2025年度にかけて、約40件の案件が持ち込まれ、成立しました。
2025年には、AI関連の取組みを部門横断で取りまとめる、AIトランスフォーメーション・クロスファンクショナル・チームを設立しました。社内公募で約200人を集め、優先すべき取組みの議論を始めるとともに、元マイクロソフトアジア社長のアーメッド・マザーリ氏が率いる、kAIgentic社(シンガポール)に出資し、AI関連のプロジェクトをともに推進しています。実績が着実に積み上がり、2026年4月からはAIトランスフォーメーション推進部という部門が誕生しました。
その過程で予算をつけた取組みが成果を出し始めています。一例として、コンタクトセンターでは、すでにAIのオペレーターが「Olive」に関する多くのお問い合わせに対応しています。また電子契約の領域において、電子契約事業(「SMBCクラウドサイン」)から契約プロセス全体を変革するプラットフォーム事業(「LegalXross」)に進化し、法律事務所やスタートアップ企業と合弁会社を設立して、インドでも展開しようとしています。AI活用による法人向けビジネスの高度化の取組みでは、面談記録作成、ニーズにマッチするサービス選定、提案資料作成等を支援するAIを開発し、より良い提案を迅速に行うことが可能になりました。

こうした積極的な新規事業開発は最近になって始めたことではなく、2012年にスタートしました。当時、銀行はゼロ金利やスマートフォンの普及、フィンテックの台頭といった大きな変化に晒され、このままでは本当に銀行がなくなるのではないかという危機感のもと、様々な取組みを始めたのです。2017年からは部門を跨いで案件に取り掛かる枠組みとして、CDIOミーティングという企画会議を毎月開催し、新たな施策や事業を模索し始めました。
CDIOミーティングでは、私は皆が持ち込むプランに予算や人をつけて支援しますが、実現までのプロセスは当事者に任せて、細かく詰めないことを心掛けていました。そうすることで良い企画が生まれ、他の部署でも自主的に横展開が起こるからです。積極的に予算をつけたことで、組織内のカルチャーが大きく変わりました。人事制度も全体的に変更し、年齢にこだわらず能力の高い人材を獲得して厚遇するため、年功序列の廃止を決定・公表しました。AIの登場は銀行業務を一気に変えると、皆が本気で考えています。これまでと全然違うやり方で会社のカルチャーを変え、スピード感を持ってビジネスを進めていきます。
4月から新しい中期経営計画がスタートしました。3年間で1兆円のIT投資を実施し、クラウド化比率やAI・クラウド人材の育成を強化します。AIの力を最大限に発揮していくため、システム基盤とデータ基盤をAI-Readyに整え、クラウド化比率を現在の8%から一気に50%へ引き上げることを目指しています。
世界全体をみると、金融機関の勘定系に近い重要な情報部分のクラウド化比率は、10~20%です。日本でも一部の銀行で勘定系システムのフルクラウド化が進み、フューチャーアーキテクトが手掛けた福島銀行でもクラウド型基幹業務系システムの安定稼働が公表されています。私たちもどこまでクラウド化するか、どこをオンプレに残すか、どういうアーキテクチャにするかを、先人たちの意見を参考に検討しチャレンジしていきます。
手作業で行う定例・定型的な銀行業務については、徹底的にAI化していきます。しかし、業務が減っても人は足りなくなるのではと考えています。例えば社内稟議にしても、AI活用で明らかに回転が速くなり、人間はリードタイムもなくどんどん承認しなければならない。
さらにトークナイズド・デポジットや、ステーブルコインといったプログラマビリティのあるお金が出てくると、AIエージェントが預金を運用し始めます。融資も事前に多めに借りる必要がなくなり、必要なときに必要な分だけ借りられるようになるでしょう。そうなると、トランザクション数が莫大に増える可能性があります。AIでできるだけ処理しても、一定数の人は必要です。金融が変化するなかで、人を増やしながら、できるだけAIで事務処理をしていくことになると思います。
銀行業はもともと両替商から始まり、二通貨制だった江戸時代の日本国内で為替を発生させていました。銀行が個人から預金を集めて法人に融資するようになったのは、戦後の話です。つまりFXから始まりファイナンスに変化したわけです。いま、また新しいビジネスに変わる時が来ています。AIとともにもっと情報産業化し、M&AやMBOのようにファイナンスのテクニックを使いつつも、最大の収益源は情報と情報をつなぐところに移るのではないかと考えています。
AIを通じた業務変革を行う上で、すでに当行は業務プロセスそのものをAI中心に組み換えていく動きを始めています。新中計でもAI・デジタル活用による業務効率化で、年間630億円のコスト削減を見込んでいます。人間の仕事は、人間が果たすべきより大事なことに寄っていくはずです。どこまでAIに任せて、どこから人の役割とするかの線引きが重要になってくると思います。
プラセボ(偽薬)効果に関する最近の実験で、テキスト情報よりも、カプセルを飲む行為や食感が人間の脳に影響し、効果をもたらすのではないかと言われています。AIはまだテキストレベルの話です。車や家といった大きな買い物をするときや、人生にとって大事な決断をするときは、皆さんもテキストデータだけで比較して決めてはいないでしょう。
金融の場面でも、大きい決断のときほど「担当の人が気に入ったから、メインバンクではないけどその人がいる銀行で」ということがあるのです。本当に大事なジャッジというのは、テキストデータではない脳への別の刺激で、勝負が決まるのではないかと思っています。営業でも何にも言わずに提案書だけ出して通ったことなんて、一度もありません。AIが出すテキストよりも強い行動変容につながるような、湧き出てくる魅力や輝きを人間はもっと鍛えないといけない。それが人間の価値につながるのだと思います。
グループディスカッション AI活用の現在地と、本格活用を阻む『壁』の深掘り
本セッションのテーマであるAI活用について、グループごとに各社の「現在地」を共有し、全社規模での本格活用へ移行する過程で直面する課題について活発な議論が交わされました。
AI-Readyの状態にするためのデータの構造化や、AI活用による業務プロセスの変革に向けてフォーカスすべきこと、AIに読み込ませるデータの意味付けなど、重要なテーマについて様々な意見が上がったほか、AIツールの利用率向上の具体的な取組みなどが共有されました。

登壇者の所属・役職は開催当時のものです。