2026.02.03
開催レポート 「FIFエグゼクティブセミナー2025 企業価値を高めるためのDX戦略 DXの最前線から、その先へ」
フューチャー株式会社が運営する社会貢献団体「フューチャー イノベーション フォーラム」(FIF)は2025年11月21日(金)、会員企業向けに「FIFエグゼクティブセミナー2025 企業価値を高めるためのDX戦略 DXの最前線から、その先へ」を開催しました。
FIFエグゼクティブセミナー 開催概要
F I Fでは、「イノベーションで人と社会を豊かに」をコンセプトに、企業の経営層や次世代リーダーが業界や業種の枠を越えて共有のビジネス課題を議論し、イノベーションの活路を見出す場としてセミナーを開催しています。
本セミナーでは、東京大学 先端科学技術研究センターで人間拡張と自在化に関する研究を推進する稲見 昌彦様と、旭化成株式会社の研究開発・DX・知的財産を統括する久世 和資様に登壇いただき、最新技術のビジネス実装の可能性と先進的なDXの事例についてご紹介いただきました。
特別講演「『自在化』はビジネスや社会に何をもたらすか」
東京大学 総長特任補佐 先端科学技術研究センター 副所長 教授 稲見 昌彦様
多様な技術を駆使し、人間がやりたいことを時空や身体的制約を超えて実現することを目指す「自在化」という概念が、未来のビジネスにもたらす可能性について多角的な視点からご紹介いただきました。
「テクノロジーが人間の能力を超えるということは、産業革命を含めこれまでも度々ありましたが、AIが発展したからといって人間のやることがなくなるわけではありません。また全く違うことを創造していくのが人間なのではと思っています。
LLMをロボットに応用し、人とロボットだけではなく、人とロボットとAIが一体化する時代も来るのではないかと思っています。人がやりたくない仕事をロボットに代替させる「自動化」に対して、コミュニケーションや表現といった活動を、AIを活用して人馬一体ならぬ人機一体で実現しようという考え方が『自在化』。それを支える技術が、我々が研究する『人間拡張工学』であると捉えています。
バーチャルリアリティなど、言語を介さず感覚を伝える技術を使って新しいスキルのトレーニングを行い、適切な成功と失敗を経験させることで人間の学習を加速する研究も行っています。また、AIを活用して人と人とのコミュニケーションを適切化する技術も考えられます。個人のメンタルヘルスの不調や、組織内のコミュニケーション不全により失われる生産性を、AIが自動翻訳機ならぬ『自在翻訳機』となってうまくサポートする。それによって個人が100%の実力を発揮でき、組織の生産性向上も実現できるのではないか。そうした『こころの自在化社会』にもチャレンジしていこうと思っています。」

「産業革命が肉体労働からの解放、情報革命が頭脳労働からの解放とするならば、AIの力を使うことで次に起こるのは、人間を感情労働から解放する『情動革命』ではないでしょうか。今後AIを企業の中に取り込んでいく一つのヒントになるかもしれません。
ポストAI時代では、キュリオシティとモチベーションが重要なリソースになると思っています。教育機関としての大学では、どのように組織の構成員にそれを伝え、維持できる環境を作るかを考えていきたいと思いますし、ビジネスの組織でもこうしたことが新しいサービスを生み出す原動力になるのではと思っています。我々も大学の研究者と企業の方々、学生が手を携えて新しいクリエイティブ、新しいアイディアを世の中に実装していくハブになろうと取り組んでいます。
DXを効率化の終着点とするならば、自在化はクリエイティビティの出発点と言えるのではないかでしょうか。リーダー自身が自在化する組織のビジョンを掲げ、変化を恐れず成長を楽しむ文化を醸成することが、企業の価値創造の原動力になり、社会を変える力になると思っています。」
特別講演「DXが切り拓く企業の未来」
旭化成株式会社 取締役 副社長執行役員 研究開発・DX・知的財産統括 久世 和資様
DX推進が加速し、多くの企業がデータ活用と企業価値の向上に注力するなか、旭化成におけるものづくり技術とデジタル技術融合の具体的な取組みについて、事例を交えてご紹介いただきました。

「旭化成はマテリアル・住宅・ヘルスケアの3領域を主な事業としており、3領域経営による価値創出が経営課題となっていました。3事業に横串を刺し、シナジーを生み出す意味でもDXが活用できると考えます。グループのデジタル変革を進めるにあたっては、導入期・展開期・創造期・ノーマル期に分けてロードマップ化し、重点分野を定めて取り組みました。いまは全従業員がどのような現場でもデジタルを活用するマインドセットで働く『デジタルノーマル期』へ移行しています。
DXの『D』であるデータとデジタル技術を使いこなすことは、あくまで手段です。目的は『X』であり、製品、サービス、ビジネスモデル、業務、プロセス、組織風土などの継続的な変革です。当社ではデジタル共創本部を設立し、現場が変革に向けて自走できるように各現場のリーダーとなるデジタルプロ人材を育成し、事業とデジタル技術のマッチングも推進するなどしてDXをスケーリングしてきました。
全員参加・現場主導・事業領域の壁を越えた共創を掛け合わせることで、デジタルプロ人材数、データ活用量、増益貢献のすべてにおいて目標を達成しました。生成AIについても全社での活用を促進し、全従業員が安全にAIを使える教育やサポートも行い、競争力強化やリスク低減など、各事業の強化と拡大に大きく貢献しています。」

「多様な無形資産からの価値創造とは、事業への貢献であり、ひいては社会に還元しサステナビリティの好循環を生み出すことです。無形資産には技術やノウハウ、知的財産、ブランド、お客様とのリレーション、デジタルなど様々な要素のほか、社風・人材があります。企業の強みは人の中にあると考えています。
無形資産を活用してソリューション型事業とIP(Intellectual Property, 知的財産)アセット型事業の2パターンで展開を推進しています。ソリューション型事業では好事例として、イオン交換膜法食塩電解事業において業界で唯一となるすべての要素技術(電解槽、膜、電極、セルなど)提供に加え、テクニカルサポートとモニタリング技術による効率的かつ最適なオぺレーション提供までを実現しました。
さらに、ノウハウを蓄積して技術的に共通する他の事業でも応用しています。IPアセット型事業では、従来は収益化に10年かかっていたところを、自社単独での製品化にこだわらず研究開発の段階で世界中から共創パートナーを探すなどすることで、早期の収益化を目指します。
皆さんの企業にも多くの無形資産が眠っているはずです。可能な範囲でIPアセットをオープンにして活用することで、日本企業ひいては日本全体が元気になることを願っています。また、日本企業がIPを持ち寄り、共に事業に取り組むことでさらに強くなるといったことができればと思っています。」
当社からの発信「生成AIの最新動向とビジネス応用の可能性」
フューチャー株式会社 チーフリサーチエンジニア 博士 (情報科学) 森下 睦
大規模言語モデル(LLM)の研究者である森下が、最新の研究成果と世界的な動向をご紹介し、当社の取組みも交えながらビジネス応用に関する今後の展望をお話ししました。

「2025年はソフトウェア開発に関するベンチマークであるSWE-benchと、博⼠レベルの専⾨知識を問う質問応答のベンチマークであるGPQAのスコアがともに急上昇しました。
進化の背景には、基礎技術としての『思考モデル』の精度が大きく上がったことと、応用技術である『エージェント』の発展が挙げられます。エージェントは様々なシステムと連携しながら自律して動作し、目的を達成します。多くの技術が交わることでAIの進化は成り立っています。
エージェントは、定型的かつ予測可能な環境でシンプルな⼿順に従って業務を遂⾏する『ワークフロー型』から進化してきました。フューチャーアーキテクトが開発した、金融機関向け戦略業務系システム『FutureBANK』が活用するエージェント技術は、数ある手順の中からAIが自律的に行動を選択し、人間がチェックしながら業務を遂行させる『限定自律型』と呼ばれています。
今後はさらに自律化が進んでいくとされ、数年以内には目的を示せば自力で手順も考える『完全自律型』が実現するといわれています。AIエージェント時代の業務では、⼈の役割は『作業者』から『管理者』に変わります。」

「AIをビジネスに応用する準備として必要なのは、業務プロセス・業務データ・システム群の3つをAI-Readyの状態にすることです。
まず業務プロセスを、AIを⼈の補助機能とするAI-enabledの状態から、AIが中心となるAI-nativeに変⾰することで、効率化の幅も大きくなり、ビジネスの優位性が生まれます。
AIが業務に活⽤できない最大の要因はデータ不⾜です。AIは主に公開データから学習しているため、⾃社に特化するためには各社固有の⼗分なデータが必要です。
データは構造化されAIが意味を理解できる『解釈性』、常に最新の状態を反映する『リアルタイム性』、AIが機械的にアクセスできる『アクセス可能性』を備えることで活用しやすくなります。
AIの解釈能力は飛躍的に高まっており、これまで使えなかったデータにも新しい価値を生む可能性があります。既存の枠組みにとらわれないデータ活用への発想力や想像力が、競争力につながっていくと考えています。
システム群においては、AIにより業務を駆動することを前提に、リアルタイムのデータがシステム上で動作でき、多種多様なAIが24時間駆動できる、拡張性と柔軟性のあるアーキテクチャが求められます。
これら3つのReadyは互いに深く関係するため、全てを徐々に整備していくことにより、技術⾰新の効果を最⼤限に享受できると考えます。当社でもこうした考えからお客様の課題解決に取り組んでいます。」
登壇者の所属・役職は開催当時のものです。